皇帝シャー・ジャハーンと王妃ムムターズ・マハルの愛の物語
インド建築の最高峰として、世界屈指の人気を誇る世界遺産タージ・マハルは、17世紀にムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンが、36歳の若さでこの世を去った最愛の王妃ムムターズ・マハルの死を悼み、王妃への永遠の愛を捧げるために建設された、最も壮大で最も美しい「愛の墓標」です。
タージ・マハルの名前の由来が「ムムターズ(王妃の名)・マハル(宮殿)」が訛ったものである事からも、この白亜の大霊廟が皇帝と王妃の愛の物語であることを示しています。
タージ・マハルの建設後、皇位継承争いに負けたシャージャ・ハーンは、実の息子にアグラ城内にある八角の塔ムサンマン・ブルジュ内に幽閉されました。皮肉にも彼が愛する王妃のために作ったこの部屋からは、タージ・マハルを望むことが出来ます。
幽閉された彼が亡き愛妃を偲びながら、その場所から8年間、自ら建設したタージ・マハルを毎日眺めていたのも、なんとも皮肉で感慨深い愛のストーリーです。
タージ・マハルの中の唯一の非対称
亡き王妃のため、極限の美を追求して建設された世界遺産タージ・マハル。22年の歳月と国政を揺るがすほどの膨大な国家予算をかけて建設されたタージ・マハルは、世界から名だたるイスラム建築士や彫刻士が集められ、大霊廟・ミナレット・庭園、そして壁画に刻まれた象嵌細工まで、計算しつくされた完璧な左右対称のシンメトリーを誇り、インド・イスラム建築の最高峰と称されます。
さて、その完璧なシンメトリー誇るタージ・マハルの中で唯一の非対称といわれているのが、大霊廟内部に安置されている皇帝シャー・ジャハーンと愛する王妃の棺です。アグラ城で無念の死を遂げた皇帝が、死後、愛する王妃の傍に埋葬された結果、タージ・マハル唯一の非対称になりました。
完璧なシンメトリーを追求した結果、自分の棺だけ非シンメトリーになりましたが、様々な権力争いの中で離れ離れになってしまった2人が、再び寄り添うよう1つになれたこの形こそ、至高の美なのではないでしょうか。